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私的 児童文学作家事典〔海外編〕マ行

2018年7月15日 鈴木朝子

マクギボン,ジーン MacGibbon, Jean(1913~  )
 イギリスの児童文学作家。ロンドン生まれ。21歳で結婚、編集者・翻訳家として活動したのち、40代になってから自分の家族の経験や生まれ育った土地をもとにした物語を書き始める。作品に、様々な人種や民族の人々が暮らすロンドンの下町を舞台にして、生き生きとした一人の少女を中心にした思春期の子どもたちの姿を鮮やかに描いた『ハル』(1974)などがある。
マクドナルド,ジョージ MacDonald, George(1824~1905)
 イギリスの作家・詩人。スコットランドのアバディーンシャー州ハントレーに生まれる。8歳で母親を病気で亡くす。アバディーン大学を卒業して家庭教師を務めたのち、ハイベリー神学校に学び、組合派教会の牧師となるが神秘主義的な思想が受け入れられず辞職。講演のかたわら、詩集や小説などを出版、多くの詩人や作家と交流する。子ども向けの妖精物語も執筆し、「かるいお姫さま」「金の鍵」などをおさめた短編集『妖精のおつき合い』(1867)のほか、北風の精と不思議な旅をする少年の成長と死の問題を扱った長編物語『北風のうしろの国』(1871)、お姫様と少年の冒険を描いたファンタジーの連作『お姫さまとゴブリンの物語』(1872)『カーディとお姫さまの物語』(1882)などの作品がある。他に、大人向けのファンタジー『ファンタステス(おとぎの国へ)』(1858)、『リリス』(1895)などがある。
マクニッシュ,クリフ McNish, Cliff(1962~  )
 イギリスの作家。サンダーランド生まれ。ヨーク大学で歴史を学ぶ。IT関係の仕事に従事するかたわら娘のために物語を書き始める。突然連れ去られた別世界でそこを支配する魔女と戦う姉弟の冒険を描いた処女作『レイチェルと滅びの呪文』(2000)は、ややグロテスクなところもあるがスリリングな物語である。三部作として続編があるほか、<シルバーチャイルド>三部作などの作品がある。
マクラクラン,パトリシア MacLachlan, Patricia(1938~  )
 アメリカの児童文学作家。ワイオミング州生まれ。コネチカット大学を卒業。英語を教えながら地域活動に従事し、のち大学で児童文学の講師を務める。新聞広告でやって来た父親の再婚相手と子どもたちの心暖まる交流を描く物語『のっぽのサラ』(1985)は、ニューベリー賞、ゴールデン・カイト賞、スコット・オデール歴史小説賞を受賞し、映画化もされた。他に、続編『草原のサラ』(1994)、ゴールデン・カイト賞を受賞した『やっとアーサーとよんでくれたね』(1980)、幼年向けのファンタジー『明日のまほうつかい』(1982)などの作品がある。
マゴリアン,ミシェル Magorian, Michelle(1947~  )
 イギリスの児童文学作家。ポーツマス生まれ。ローズ・ブルフォード・カレッジで演劇を専攻したのち、パリのマルセル・マルソー国際学院でパントマイムを学び、舞台・テレビ・映画で女優として活動する。1980年代から物語を書き始め、第二次大戦中ロンドンから疎開してきた、母親に虐待された少年と老人との暖かい交流を描いた処女作『おやすみなさいトムさん』(1981)で、ガーディアン賞を受賞。
マチーセン,エゴン Mathiesen, Egon(1907~1976)
 デンマークの絵本作家・画家。エスビエーア生まれ。独学で絵を学ぶ。楽天的なシャム猫を主人公にした楽しい絵物語『あおい目のこねこ』(1949)のほか、ねずみやさるや鳥などの動物を主人公にした、簡潔な線の絵とテンポのいい言葉を使った数多くの優れた絵本を製作し、デンマーク政府の絵本賞、アメリカのニューヨーク・ヘラルド・トリビューン賞を受賞。抽象画家として壁画製作などにも携わり、児童演劇の仕事でデンマーク・ロイヤル・アカデミーのエスカルベ賞を受賞。
マックロスキー,ロバート McCloskey, Robert(1914~2003)
 アメリカの絵本作家・児童文学作家。オハイオ州ハミルトン生まれ。ボストンのヴェスパー・ジョージ芸術学校、ニューヨークのナショナル・アカデミー、ローマで学ぶ。商業美術の仕事を経て、1940年絵本の処女作を出版、ボストンで壁画製作に従事。1940年ルース・ソーヤーの娘と結婚。ボストンの街中でのかもの親子の引っ越しを描いた『かもさんおとおり』(1941)は、構図が巧みな、動きのある楽しい絵本で、コルデコット賞を受賞。自分で絵も描いた物語『ゆかいなホーマーくん』(1943)では、小さな町で起こる出来事を機械文明への風刺も込めながら愉快に描いている。第二次大戦で兵役についたのち、夏場はメイン州の小島に住んで、その地での自分の家族の素朴な生活を題材にした絵本『サリーのこけももつみ』(1948)『海べのあさ』(1952)『すばらしいとき』(1957)を製作、『すばらしいとき』で再度コルデコット賞を受賞。映画、人形劇などの仕事も手がける。
マーヒー(マヘイ/メイヒー),マーガレット Mahy, Margaret(1936~2012)
 ニュージーランドの作家。ワカタネ生まれ。ニュージーランド大学を卒業後図書館学を学び、児童室などで図書館員として勤めるかたわら、『魔法使いのチョコレート・ケーキ』(1972)『海賊の大パーティ』(1978)などの作品集におさめられている、低学年向けの奇想天外な楽しい短編を執筆。のち専業作家となり、1980年代からはヤングアダルト向けの緻密な構成の長編も発表し始める。不思議な足音の恐怖を描く『足音がやってくる』(1982)と、微妙に揺れる心を持つ思春期の少女が弟を守るため「魔女」になる息づまるサスペンス・ファンタジー『めざめれば魔女』(1984)は、ともにカーネギー賞とエスター・グレン賞を受賞。他に、青春小説『贈りものは宇宙のカタログ』(1985)、みたびエスター・グレン賞を受賞した『地下脈系』(1992)、いとこ同士の子どもたちの元気な日常生活を描いた<フォーチュン団のなかまたち>など、多くの作品がある。2006年国際アンデルセン大賞を受賞。
マーフィ,ジル Murphy, Jill(1949~  )
 イギリスの作家・絵本作家。ロンドン生まれ。チェルシー美術学校、クロイドン美術学校に学ぶ。さまざまな仕事に就いたのち、どじな魔女ミルドレッドが活躍する『魔女学校の一年生』(1974)を出版。この作品が人気を博し、シリーズ化されて書き継がれているほか、映画化・テレビドラマ化もされた。絵本の作家としても活動し、『ゾウさんママのダイエット』(1989)などの作品がある。
マルシャーク,サムイル・ヤコヴレヴィチ Маршак, Самуил Яковлевич(1887~1964)
 ソビエト時代のロシアの作家・詩人。南部のヴォロネージ県のユダヤ人技師の家に育つ。病弱のため中学を中退するが、詩才を認めたゴーリキーの世話で一時ヤルタで学び、1912年イギリスのロンドン大学に留学。1917年に帰国し、戦乱による孤児や避難民の救済事業に参加して、子どものための劇場や図書館づくり、創作を手がける。イギリスの詩や伝説の翻訳に始まり、子どものための詩・戯曲・物語・絵本などを数多く執筆。スラヴの伝説をもとにした、少女を助けてくれる自然の力を洗練された美しい会話で綴った戯曲『森は生きている』(1943)は、広く上演され映画化もされた。詩の形をとっている作品が多く、他に、詩集『とんまなおじさん』(1932)、絵本『しずかなおはなし』(1958)、自伝小説『人生のはじめ』(1962)などがある。1946年スターリン芸術賞を受賞。
マロ,エクトール・アンリ Malot, Hector Henri(1830~1907)
 フランスの作家。ノルマンディー地方のラ・ブイユ生まれ。パリ大学で法律を学ぶが、文学の道を志し、新聞や雑誌に文芸批評などを寄稿。1858年に三部作の第1作となる小説を出版、以後通俗的な大衆小説を多数執筆し、人気作家となる。少年が旅芸人の一座とともにフランス各地を回り家族と再会する『家なき子』(1878)は、フランスの地理を教えるとともに、炭鉱などで働く人々の実情をよく描き、通俗的だが感動的な少年の成長物語として広く読まれ、今日までに多くのダイジェスト版やアニメなども作られている。子ども向けの作品では他に、工場で働く少女の物語『家なき娘』(1893)、サーカスに入った少年の物語『海の子ロマン』(1869)があり、いずれも孤児として苦労している子どもが最後には幸福になるという筋立てになっている。

ミラー,アーサー Miller, Arthur(1915~2005)
 アメリカの作家。ニューヨーク生まれ。高校卒業後働いて学資をため、ミシガン大学演劇科に学ぶ。在学中から戯曲でいくつかの賞を受け、卒業後はニューヨークへ戻って1944年ブロードウェイで処女作が上演される。平凡な庶民の主人公が親子関係の葛藤から死に至るというテーマを主に取り上げ、『セールスマンの死』(1949)『橋からの眺め』(1955)は、ともにピューリッツァー賞を受賞、第二次大戦後のアメリカ演劇界の代表者の一人となる。小説やラジオ・ドラマも執筆し、幼年向けの物語に、子どもの大好きな毛布への心情をきめ細かに綴った『ジェインのもうふ』がある。1956年女優マリリン・モンローと結婚(1961年離婚)。1965年から69年まで国際ペンクラブ会長を務める。
ミルン,A.A. Milne, Alan Alexander(1882~1956)
 イギリスの作家。ロンドン生まれ。ケンブリッジ大学で数学を学ぶが、文学を志して学生新聞の編集に携わったりし、卒業後様々な新聞や雑誌に投稿する。1906年風刺雑誌「パンチ」の副編集長となり、随筆や詩も執筆。第一次大戦で兵役につき、戦後は専業作家となって、「大人のための」おとぎ話『ユーラリア国騒動記』(1917)、戯曲『ピムさん通れば』(1920)『ヒキガエル屋敷のヒキガエル』(1929、ケネス・グレアム『たのしい川べ』の脚色)、推理小説『赤い館の秘密』(1921)など多くの戯曲や小説を発表。自分の子どものために書いた物語『クマのプーさん』(1926)『プー横丁にたった家』(1928)と、童謡集『クリストファー・ロビンのうた』(1924)『クマのプーさんとぼく』(1927)は、子どもが共感できる個性豊かなぬいぐるみと動物たちの素朴な空想の世界を、リズミカルな言葉でユーモラスに描き出した名作である。他に、自伝『ぼくたちは幸福だった』(1939)がある。

ムサトフ,アレクセイ Мусатов, Алексей Иванович(1911~1976)
 ソビエト時代のロシアの児童文学作家。モスクワ北郊のリズノーヴォ生まれ。師範学校を卒業後、ロシア語の教師を務めるかたわら、農村を舞台にした作品を発表し始める。新聞や雑誌の特派員となり、各地の農村や戦地のルポルタージュも執筆。集団農場(コルホーズ)を築いていく人々の生活と心のふれあいを細やかに描き出すことに優れる。第二次大戦直後の、戦争で父親をなくした少年を中心にした物語『こぐま星座』(1949)は、やや理想的ながら健全で明るく、スターリン賞を受賞、のち自らの手で脚色され各地で上演された。他の作品に、『丘の上の家』(1951)、『疾風の中で』(1967)などがある。

メイスフィールド(メースフィールド),ジョン Masefield, John Edward(1878~1967)
 イギリスの作家・詩人。ヘリフォードシャー州レッドベリ生まれ。幼いうちに両親を亡くし、10代半ばで商船の船員となり4年間世界各地を回る。病気を機に船員をやめてアメリカへ渡り、パン屋・馬車屋・酒場・農園・工場などで働くかたわら文学を志す。1897年に帰国してロンドンでジャーナリストになり、雑誌に詩を発表し始める。日常の粗野な言葉を使った力強い愛情にあふれた詩で注目され、処女詩集『海水のバラード』(1902)以降、長編物語詩「キツネのレナード」ほか多くの詩・戯曲・小説・随筆・評論などを幅広く執筆。1930年桂冠詩人となる。子ども向けの作品に、帆船による中国からの茶の運搬競争を描いた『ニワトリ号一番のり』(1933)、夢と現実が入り混じったような不思議な冒険ファンタジーの連作『夜中出あるくものたち』(1927)『喜びの箱』(1935)などがある。
メイン,ウィリアム Mayne, William(1928~2010)
 イギリスの児童文学作家。ヨークシャー州ハル生まれ。カンタベリ大聖堂聖歌隊学校を卒業。10代のうちから作家を志し、25歳で処女作を出版。ヨークシャー地方の風物を細かく書き込んだ作品を著し、宝探しの物語『草の綱』(1957)で、カーネギー賞を受賞。うらさびれた町での落ちこぼれ気味の少年たちの平凡な日常を淡々と細密に描き出した『砂』(1964)は、リアリズム作品の傑作と評価されている。1960年代後半からは子どもや若者の心の問題をファンタジーの手法を使って描く作品も手がけ、アーサー王伝説をからめて200年前の少年が現れる『地に消える少年鼓手』(1966)、重病で厳格な父親との葛藤に悩む現実と、竜と戦う異世界との間で揺れる少年を描いた『闇の戦い』(1971)などの作品がある。
メーテルリンク(マーテルランク),モーリス Maeterlinck, Maurice(1862~1949)
 ベルギーの作家・詩人。ガン生まれ。ガン大学で法律を学ぶが、文学を志し、卒業後パリに出て象徴派の詩人たちと交流する。帰郷後弁護士をしながら詩を作り、詩集『温室』(1889)、戯曲『マレーヌ姫』(1889)を出版して好評を得る。1895年に結婚し、翌年パリに移住。幸福をもたらす鳥を求めて兄妹が不思議な旅をする『青い鳥』(1908)は、死と運命に対して生きる喜びを美しい色と音楽で描いた劇で子どもたちに喜ばれ、各地で上演される。続編に『婚約』(1918)がある。他に、戯曲『ペレアスとメリザンド』(1892)、神秘主義的な随想『蜜蜂の生活』(1901)などの作品がある。1911年ノーベル文学賞を受賞。第二次大戦時はアメリカに渡り、戦後フランスに戻る。
メリング,O.R. Melling, O. R.
 カナダの作家。アイルランドのダブリン生まれ。5歳のときカナダに移住。哲学や中世史を学び、様々な職業を経て作家となる。のちアイルランドに戻る。現代の子どもたちがアイルランドの神話や伝説の世界にかかわるファンタジーを執筆し、少女が妖精に連れ去られた従姉妹を追う『妖精王の月』(1989)は、ルース・シュワッツ賞を受賞。他の作品に、英雄時代の戦いに巻き込まれる姉弟の物語『ドルイドの歌』(1983)、異民族侵入に揺れる神話時代で自分の出身と宝の探索に出る少女の物語『歌う石』(1986)などがある。

モオ,ヨルゲン Moe, Jørgen(1813~1882)
 ノルウェーの民話研究家・詩人。大学を卒業後、家庭教師をしながら民話の収集・研究を進め、学生時代からの友人アスビョルンセンとともにノルウェー初の民話集『ノルウェー民話集』(1842)を刊行。その後も共編や独力でいくつかの民話集・民謡集を発表。日本版の『太陽の東 月の西』はそれらの民話集の中から18編を選んで訳したもの。民話・民謡によって自国の文化を再認識させる役割を果たし、言語改革運動にも尽力。当時の農民の生活や自然を巧みに描いた詩集や物語集も出版する。
モルナール,フェレンツ Molnár, Ferenc(1878~1952)
 ハンガリーの作家。ブダペスト生まれ。ブダペストの法律学校とスイスのジュネーヴ大学に学ぶかたわら、小説や戯曲を執筆。卒業後新聞記者となり、第一次大戦時には従軍記者を務める。『リリオム』(1909)、『白鳥』(1920)などの戯曲で優れた劇作家として認められ、ハンガリー演劇の近代化を推進。都会にすむ平凡な人々の悲劇や、現実と空想の混じったファンタジーを暖かい目で描いている。子ども向けの物語に、ブダペストの街中での少年たちの広場をめぐる争いを中心とした『パール街の少年たち』(1907)があり、都会の子どもたちの姿を生き生きと表した名作として親しまれ、映画化もされた。1940年アメリカに亡命して映画や演劇の仕事をし、ニューヨークで亡くなる。
モンゴメリ,ルーシー・モード Montgomery, Lucy Maud(1874~1942)
 カナダの作家。プリンス・エドワード島クリフトン生まれ。幼いうちに母親をなくし、キャベンディッシュの祖父母の元で育てられる。プリンス・オブ・ウェールズ大学、ダルハウジー大学で学ぶ。3年ほど教師を務めたのち帰郷し、家業の郵便局経営のかたわら文筆活動を続ける。1911年に結婚。初めいくつもの出版社から出版を断られた処女長編『赤毛のアン』(1908)は、元気で生き生きとした想像力豊かな少女のおしゃべりや様々な失敗が実に楽しく、美しい自然、周囲の人々の性格なども魅力的に描かれており、大変な人気となって続編も次々に書かれ、映画やアニメにもなった。他に、『ストーリー・ガール』(1911)『可愛いエミリー』(1921)『銀の森のパット』(1933)などの作品のほか、詩集『夜警』(1916)、自伝『険しい道』(1974)がある。

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